個人再生で車のローンだけ特別扱いされない理由
個人再生は家を残せる手続きとして案内されます。同じ理屈で車も残せるのか、というと条文の作りが違います。
特別扱いされているのは住宅だけ
民事再生法は、住宅ローンのためだけに1つの章を置いています。用語の定義が196条1号です。
住宅個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって、その床面積の二分の一以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるものをいう。
「建物」と書かれています。車はここに入りません。
住宅資金特別条項は、この定義に当てはまる建物だけを対象にしています。198条1項は「住宅資金貸付債権については、再生計画において、住宅資金特別条項を定めることができる」としていて、対象が住宅資金貸付債権に限られています。
車のローンに対応する条文は、民事再生法のどこにもありません。「車も残せる」と書いてある解説を見たら、それは条文ではなく実務の話です。
担保が付いていると、手続きの外で行使される
車のローンが問題になるのは、車に担保が付いているからです。53条1項と2項がその扱いを決めています。
再生手続開始の時において再生債務者の財産につき存する担保権(特別の先取特権、質権、抵当権又は商法若しくは会社法の規定による留置権をいう。第三項において同じ。)を有する者は、その目的である財産について、別除権を有する。
別除権は、再生手続によらないで、行使することができる。
「再生手続によらないで」がここでは決定的です。再生計画で借金を5分の1にしても、別除権はその計画の外にあります。計画が認可されても、担保の付いた財産は持っていかれることがあります。
住宅ローンだけがこの原則から外れます。その仕組みは個人再生で住宅ローンだけ残す条項にまとめました。
ローンが残っている車は誰のものか
ここで割賦販売法7条が効きます。
第二条第一項第一号に規定する割賦販売の方法により販売された指定商品(耐久性を有するものとして政令で定めるものに限る。)の所有権は、賦払金の全部の支払の義務が履行される時までは、割賦販売業者に留保されたものと推定する。
払い終わるまで所有権は売主のほうに残っている、と推定されます。断定ではなく推定なので、契約でこれと違う定めをすることはできます。
だから最初に見るのは車検証です。
自分の名前
- 所有権は自分にある
ディーラーや信販会社の名前
- 所有権が相手に残っている
違うのは所有権が誰にあるか。後者だと、その車は自分の財産としては扱われない
後者だと、その車は自分の財産としては扱われません。自己破産の場合の扱いは自己破産で車はどうなるかにまとめました。
53条1項の列挙に所有権留保は無い
条文をよく読むと、53条1項が挙げている担保権は4つです。
- 特別の先取特権
- 質権
- 抵当権
- 商法または会社法の規定による留置権
**所有権留保はこの中にありません。**民法にも「所有権留保」という条文はなく、割賦販売法7条が推定を置いているだけです。
つまり車のローンについては、どの担保権にあたるかを条文が決めていません。実務でどう扱われるかは事案によるので、この記事では断定しません。分かるのは、住宅のように「こう扱う」と書いた条文が無いということです。
何を先に確かめるか
順番はこうなります。
- 車検証の所有者欄を見る
- ローン契約書に所有権留保の定めがあるかを見る
- 残債がいくらかを確かめる
- そのうえで手続きを選ぶ
1と2で答えが変わるので、そこを飛ばして相談しても話が進みません。残債の額は、返済に必要な期間そのものにも効きます。
手続きごとの違いは個人再生と自己破産はどこが違うかにまとめました。
引き揚げられたあとに残る分
車を持っていかれたら、そこで終わりではありません。売った額がローンの残りに届かないことがあります。その扱いが88条です。
別除権者は、当該別除権に係る第五十三条第一項に規定する担保権によって担保される債権については、その別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の部分についてのみ、再生債権者として、その権利を行うことができる。
足りなかった部分は、再生債権として計画の中に入ります。つまり車は失うけれど、残った額は他の借金と同じように圧縮されます。引き揚げられた分がそのまま全額請求され続けることはありません。
順番としては、まず担保が実行されて、その結果が出てから残りが確定します。だから車の見込み額が分からないうちは、計画の数字も固まりません。
収入が減ると計画が認可されない
174条2項は、再生計画を認可しない場合を4つ挙げています。2号がこれです。
再生計画が遂行される見込みがないとき。
車が仕事に必要な場合、ここに直接効きます。車を失って収入が下がると、計画で決めた額を払い続けられるかどうかが問題になります。遂行の見込みが無いと判断されれば、可決されていても認可されません。
だから通勤や仕事で使っている場合は、車をどうするかを決めてから計画の額を組むことになります。順序が逆だと、組み直しになります。
通勤に使っている場合
仕事で車が要る場合、失うことがそのまま収入に響きます。個人再生は継続的な収入があることを前提にした手続きなので、車を失うことで収入が減るなら、計画そのものに影響します。
条文がこの場面を特別に扱っていない以上、先に事情を伝えて、どの手続きが成り立つかを一緒に見てもらうことになります。
頼む先を決めるときに知っておくこと
個人再生の申立ては簡易裁判所の手続きではありません。だから司法書士が行うのは裁判所に提出する書類の作成です(司法書士法3条1項4号)。代理人として関与するのとは別のもので、認定の有無では変わりません。違いは司法書士と弁護士の違いは140万円で分かれるにまとめました。
記事末尾の表に挙げたアース司法書士事務所は、個人再生の基本報酬を「110,000円〜(税込)」と示しています。そのうえで「別途、予納金等の実費が必要となります」と併記しています。下限だけの数字なので、当サイトでは金額として掲載していません(2026年8月31日確認)。
費用を比べるときは、事務所の報酬と裁判所に納める予納金を分けてください。
代理してもらう場合の相手は弁護士です。車の所有権が誰にあるかで争いになりそうなときは、書類を作るだけでなく相手方とやりとりする役が要ります。シン・イストワール法律事務所は初回の相談料を無料としているので、車検証と契約書を持って、まず線引きだけ聞くという使い方ができます(2026年9月1日確認)。
まとめ
- 民事再生法が特別扱いしているのは住宅だけ。196条1号の定義は「建物」
- 車のローンに対応する条文は民事再生法に無い
- 担保権を持つ者は別除権を持ち、再生手続によらないで行使できる(53条1項・2項)
- 割賦販売法7条は、払い終わるまで所有権が売主に留保されたものと推定する
- ただし推定なので、契約の定めが優先する。車検証と契約書を見る
- 53条1項が列挙する担保権は4つで、所有権留保はその中に無い