慰謝料が自己破産で消えるかは、条文の2号と3号で分かれる
自己破産を考えるとき、借入とは別に慰謝料を抱えている場合があります。
免責が出れば全部が消えるように読めますが、条文にはただし書きがあります。慰謝料がそこに入るかどうかは、2つの号の読み方で決まります。
慰謝料は不法行為の賠償の一部
先に言葉を揃えます。慰謝料は民法710条が定める、財産以外の損害の賠償です。
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
前条というのは709条で、故意または過失で他人の権利などを侵害した者が賠償責任を負う、という一般の規定です。
つまり慰謝料は、不法行為に基づく損害賠償請求権の一部です。破産法のただし書きが不法行為をどう扱っているかを見ることになります。
2号は「悪意」で絞っている
破産法253条1項の2号がこれです。
破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
免責の対象から外れるのは、悪意で加えた場合に限られています。不法行為の賠償がすべて残るとは書かれていません。
そして条文は「悪意」が何を指すかを定義していません。民法では単に事情を知っていることを悪意と呼ぶ場面がありますが、ここで同じ意味なのかどうかは、条文の文面からは決まりません。
だから「慰謝料は必ず残る」とも「必ず消える」とも書けません。自分の件がどちらに近いかは、事情を出したうえで判断してもらうことになります。
3号は「人の生命又は身体」に限っている(破産法253条1項3号)
続く3号は、別の絞り方をしています。
破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
こちらは悪意でなくてもよい代わりに、2つの条件が付いています。故意または重大な過失であることと、人の生命または身体を害したことです。
二号
- 主観の条件は悪意
- 対象は不法行為(限定なし)
三号
- 主観の条件は故意または重大な過失
- 対象は人の生命または身体を害するもの
主観の条件がゆるいほうは対象が狭く、対象が広いほうは主観の条件が重い
交通事故で人にけがをさせた場合の賠償は、3号の対象の条件に当たります。一方で、車だけが壊れた事故は人の生命や身体を害していないので、3号の書き方からは外れます。
4号には慰謝料が入っていない
同じただし書きの4号は、家族に関わる義務をイからニまで並べ、ホでそれらに類する契約上の義務まで広げています。イからニは、夫婦間の協力扶助・婚姻から生ずる費用の分担・子の監護・扶養です。養育費がここに入る仕組みは個人再生と自己破産の違いは残せるものにあります。
離婚に伴って払う慰謝料は、この4号には出てきません。入るとすれば2号のほうで、悪意の読み方に戻ります。同じ離婚で決まった支払いでも、養育費と慰謝料は別の号を見ることになります。
個人再生に切り替えても、同じ2つが並んでいる
自己破産を避けて個人再生にすれば減らせるか、という道があります。民事再生法229条3項が、減額できない請求権を並べています。1号がこれです。
再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
続く2号も、故意または重大な過失で人の生命または身体を害した場合です。破産法253条1項の2号・3号と、条件がそのまま重なっています。
減額の定めができないのは、その債権者の同意が無い場合です。同意があれば別に決められる、という書き方になっています。
手続きを変えても、慰謝料の扱いを決めている条件は同じです。 2つの手続きの違いは個人再生と自己破産の違いは残せるものにまとめました。
名簿に書かなかった分は、それだけで残る(253条1項6号)
もう1つ、見落とすと重い号があります。6号です。
破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
慰謝料を払う相手は、貸金業者と違って請求書が届き続けるとは限りません。それでも債権者であることは変わらないので、名簿から落とすと6号に当たります。
括弧の中に例外があります。相手が破産手続の開始を知っていた場合です。知っていた相手なら、書き漏れても残らない作りになっています。
書き漏れが問題になる場面は自己破産で隠すとバレるし罰則があるでも扱いました。あちらは財産の側、ここは債権者の側です。
慰謝料をもらう側になっている場合
逆に、自分が慰謝料を受け取る立場で、相手が破産することもあります。
このとき自分は破産債権者なので、裁判所からの通知が届く相手に入ります。通知される相手の並びは自己破産が家族にバレるのは通知ではなく保証人からにあります。
相手の免責が確定しても、2号や3号に当たれば請求権は残ります。ただし残ることと、実際に払ってもらえることは別です。
まとめ
- 慰謝料は民法710条の、財産以外の損害の賠償にあたる
- 破産法253条1項2号は「悪意で加えた不法行為」に絞っていて、悪意の定義は条文に無い
- 3号は故意または重大な過失で、人の生命または身体を害した場合に限っている
- 4号は扶養や子の監護の義務で、慰謝料は入っていない
- 知りながら債権者名簿に書かなかった請求権は、6号でそれだけ残る
- 相手が開始を知っていた場合は、6号の括弧で例外になる
相談するときに出すもの
慰謝料がある場合、金額よりも先に伝えるのは、何をして発生したものかです。2号と3号のどちらを見るかがそこで決まります。
記事末尾の表に挙げたアース司法書士事務所は、自己破産の基本報酬を「88,000円〜(税込)」と示し、「※別途、予納金等の実費が必要となります。」と併記しています。下限だけの数字なので、当サイトでは金額として掲載していません(2026年8月31日確認)。
自己破産の申立ては簡易裁判所の手続きではないので、司法書士が行うのは裁判所に提出する書類の作成です。代理できる範囲の線引きは司法書士と弁護士の違いは140万円で分かれるにあります。
非免責債権にあたるかどうかは、争いになる論点です。悪意で加えた不法行為かどうかを相手が主張してくれば、そこで応じる役が要ります。代理してもらうなら弁護士で、シン・イストワール法律事務所は初回の相談料を無料としています(2026年9月1日確認)。
慰謝料の性質が争点になりそうなときは、書類を作る前に線引きを聞くほうが早い場面です。