口座の差し押さえに4分の3の枠は無い
給料の差し押さえには4分の3という枠があります。そこから「口座も同じように守られる」と考えると、条文とずれます。このページは、預金口座が差し押さえられる場面を条文で確認します。
給料そのものの枠は給料の差し押さえは4分の3が禁止で、上限が政令にあるにあります。
預金の差押えは、銀行に届いた時に効く
預金口座の差押えは、銀行を相手にした手続きになります。民事執行法145条1項がその中身です。
執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない。
第三債務者というのが銀行です。銀行は預金者に払ってはならない、と命じられる形になります。
いつから効くかは同条5項に書かれています。
差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生ずる。
本人に届いた時ではありません。銀行に届いた時点で、その口座からは引き出せなくなります。本人が郵便を受け取るのは、たいていそのあとです。
152条が挙げているのは債権の種類
4分の3の枠は民事執行法152条1項にあります。
次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
そして「次に掲げる債権」の2号がこれです。
給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
読みどころは、列挙されているのが債権の種類だということです。1号は生計維持のための継続的給付、2号は給与に関する債権。預金債権はここに挙げられていません。
条文の構造からいえるのはここまでです。実際の事件で口座の中身がどう扱われるかは、裁判所の判断が関わります。このページで断定はしません。
税金の滞納処分は、条文の作りが違う
同じ「口座の差押え」でも、税金の滞納処分は別の法律で動きます。国税徴収法76条1項も給与に枠を置いていますが、そこに続く2項があります。
給料等に基き支払を受けた金銭は、前項第四号及び第五号に掲げる金額の合計額に、その給料等の支給の基礎となつた期間の日数のうちに差押の日から次の支払日までの日数の占める割合を乗じて計算した金額を限度として、差し押えることができない。
「支払を受けた金銭」と書かれています。支払われる前の債権ではなく、受け取ったあとのお金のことです。しかも日割りの計算式まで置かれています。
民事執行法152条に、これにあたる項はありません。つまり税金の滞納処分のほうが、口座に入ったあとの給与について明文の枠を持っていることになります。
民事執行法(民間の債権者)
- 152条に規定が無い
国税徴収法(税金の滞納処分)
- 76条2項が日割りで枠を置く
税金の滞納処分のほうだけが、明文の枠を持っている
厳しいのは税金のほうだと思われがちですが、この点では逆です。税金は滞納処分が止まらないという別の重さがあります。そちらは給料の差し押さえは4分の3が禁止で、上限が政令にあるに書きました。
枠の計算のしかたも別物
給与そのものに置かれる枠も、二つの法律で作りが違います。民事執行法152条1項は4分の3という割合で決め、政令の額を超えるときは政令の額を上限にします。毎月払いなら33万円です。
国税徴収法76条1項は割合ではなく、控除するものを号ごとに並べています。1号が源泉徴収される所得税、2号が特別徴収される住民税と森林環境税、3号が給与から控除される社会保険料。ここまでは天引きされる分です。
続く4号が、滞納者と生計を一にする親族について、生活保護法12条の生活扶助の基準を勘案して政令で定める金額。5号が、そこまでを控除した残りの20%にあたる金額です。
つまり手取りに近い額を出したうえで、そこから生活の基準額と2割を残す形になります。割合で切る民事執行法と、積み上げて残す国税徴収法という違いです。どちらが多く残るかは、収入と家族の人数で入れ替わります。
効力が生じる時点は、どちらも同じ
差押えのはじまりについては、二つの法律が同じ作りになっています。国税徴収法62条1項は、債権の差押えを「第三債務者に対する債権差押通知書の送達により行う」と定め、同条3項が効力の発生時期を通知書の送達時としています。
民事執行法145条5項と同じで、本人に届く前に口座は止まります。残高が動かせなくなってから郵便が届く、という順番はここから来ています。
承諾すると、税金の側の枠は外れる
国税徴収法76条には、さらに読み落とせない項があります。5項です。
第一項、第二項及び前項の規定は、滞納者の承諾があるときは適用しない。
承諾があれば、1項も2項も4項も適用されません。窓口で求められて承諾すると、この枠が働かなくなります。納付の相談をするときは、何に承諾したのかを控えておくことになります。
取り立てまでの日数も違う
差押命令が出たあと、債権者がすぐ取り立てられるわけではありません。民事執行法155条1項です。
金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる。ただし、差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることができない。
同条2項は、152条1項各号の債権と2項の債権について、この「一週間」を「四週間」と読み替えると定めています。給与の差押えには4週間、それ以外には1週間ということです。
| 何を差し押さえられたか | 取立てまで |
|---|---|
| 給料などの債権 | 4週間 |
| それ以外の債権 | 1週間 |
短いほうにあたると、動ける時間もその分だけ短くなります。
通知が届いたときに確かめること
書面が届いたら、次の3つを先に見ます。
- 差押命令か、債権差押通知書か(民事執行法か国税徴収法か)
- 第三債務者が誰か(勤務先か、銀行か)
- 送達の日付
1で法律が分かれ、上に書いた違いがそのまま効いてきます。2が勤務先なら、勤務先に知られる話が別に生じます。経路は債務整理が会社にバレるのは、差押命令が届いたときにあります。
生活が成り立たない場合に範囲の変更を申し立てる道は、民事執行法153条にあります。手順は給料の差し押さえは4分の3が禁止で、上限が政令にあるにまとめました。
迷ったときの窓口
差押えが始まっている段階では、時間の余裕がありません。法テラス(日本司法支援センター)は、収入等の条件を満たす場合に無料の法律相談を扱っています。税金の滞納については、納付の相談窓口が各税務署と自治体にあります。
頼む前に、代理できる範囲を見る
認定を受けた司法書士が代理できるのは、1社あたり140万円までです。線の引き方は司法書士と弁護士の違いは140万円で分かれるにあります。
このサイトが窓口として載せているアース司法書士事務所は、事務所紹介のページに代表者の認定番号と大阪司法書士会の登録番号を出しています。報酬は「1社あたり11,000円〜(税込)」と下限の形で示されているため、金額はここに書いていません。代理権を超える場合の費用が別に置かれているので、差押えが始まっている状態で相談するなら、そこまで含めて聞くことになります。
相殺は、差押えとは別の入口
同じ「口座が使えない」でも、差押えではなく相殺のことがあります。差押えは裁判所か役所から書面が届きますが、相殺は銀行が自分の判断で払戻しを止めます。
どちらなのかで、根拠になる法律も、止まる範囲も変わります。相殺の側は債務整理の口座凍結は相殺|手続きごとに違うにまとめました。
まとめ
- 預金の差押えは銀行に届いた時に効く(民事執行法145条5項)
- 152条が挙げているのは債権の種類で、預金債権は挙げられていない
- 国税徴収法76条2項は「支払を受けた金銭」にも日割りで枠を置いている
- 同じ口座の差押えでも、根拠になる法律で扱いが違う
- 76条5項により、承諾があると税金の側の枠は適用されない
- 取立てまでの日数は、給与なら4週間、それ以外なら1週間
届いた書面がどちらの法律のものかを、最初に確かめてください。