借金の時効は、待っている間に何度でも振り出しに戻る
「5年待てば借金は消える」と言われることがあります。期間そのものは民法にあります。ただし民法には、その期間が振り出しに戻る条文と、期間の満了が先送りになる条文が別に置かれています。
待つという考え方が成り立つかは、そちらを読まないと分かりません。
- 権利を行使することができることを知った時
5年消滅時効の期間
知らなかった場合は、権利を行使することができる時から10年(166条1項)
- 時効が完成する
- 一部を払う、待ってほしいと頼むなど、権利の承認があった
- その時から新たに進行を始める。それまで数えた年数は残らない(152条1項)
- 催告(内容証明郵便による支払いの請求など)があった
- その時から6か月は完成しない。再度の催告は効かない(150条)
一部でも払うと、その時から数え直しになる(152条)
いちばん効くのが民法152条1項です。
時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
「新たにその進行を始める」なので、それまで数えた年数は残りません。これを時効の更新といいます。
権利の承認にあたるのは、借りている側が「その債務がある」と認める行為です。一部を支払う、支払いを待ってほしいと頼む、残高を認める書面に署名する。どれも承認になりえます。督促の電話で1,000円だけ払うと、そこから数え直しになります。
同条2項はこう続きます。
前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
承認をする側に重い要件を置いていません。つまり承認は成立しやすいほうへ振れています。
請求されると、満了が先送りになる(150条)
もう1つが完成猶予です。民法150条1項がこれです。
催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
催告は裁判外の請求で、内容証明郵便による支払いの請求などが当たります。期間の満了が近いときにこれが届くと、そこから6か月は完成しません。
ただし繰り返しは効きません。同条2項です。
催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
催告だけで無限に引き延ばすことはできない、ということです。
裁判を起こされると、更新になる(147条・159条)
民法147条1項は、裁判上の請求・支払督促・調停・破産手続参加などがある場合に、その事由が終了するまでの間は時効が完成しないとしています。そして2項がこうです。
前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
猶予ではなく更新です。数え直しになります。
そのうえ期間が伸びます。民法169条1項です。
確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。
5年の債権でも、判決が確定すれば10年になります。
| 相手の行動 | 条文 | 起きること |
|---|---|---|
| 催告(内容証明など) | 150条1項 | 6か月だけ完成しない |
| 訴訟・支払督促・調停 | 147条1項 | 終了まで完成しない |
| 判決の確定 | 147条2項・169条1項 | 数え直し、しかも10年 |
| こちらが一部を払う | 152条1項 | 数え直し |
差し押さえを受けると、そこから数え直しになる(148条)
裁判の次の段階に進まれた場合です。民法148条1項が、時効が完成しない事由を挙げています。
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
挙がっているのは強制執行と担保権の実行です。強制執行は、裁判所を通じて財産から取り立てる手続きを指します。これに民事執行法195条の競売が続きます。さらに同法196条の財産開示手続と、204条の第三者からの情報取得手続も入っています。給料や預金の差し押さえは、この強制執行にあたります。
そして2項が続きます。
前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。
終わった時から新たに進行します。猶予ではなく更新です。差し押さえを受けた時点で、それまで数えてきた期間は消えることになります。
ただし書きに逃げ道があります。相手が申立てを取り下げた場合は、更新になりません。法律の規定に従わないことで取り消された場合も同じです。そのときは、上の括弧書きどおり終了から6か月の猶予だけになります。
仮差押えは、猶予だけで更新にならない(149条)
似た名前ですが、扱いが違います。民法149条です。
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
挙がっているのは仮差押えと仮処分です。148条と違って、新たに進行を始める規定がありません。仮差押えは判決の前に財産を押さえておく手続きです。権利が確定したわけではないので、数え直しにはなりません。
| 相手の行動 | 条文 | 起きること |
|---|---|---|
| 差し押さえ(強制執行) | 148条1項2項 | 終了した時から数え直し |
| 差し押さえの取下げ・取消し | 148条2項ただし書 | 数え直しにならず、終了から6か月の猶予 |
| 仮差押え・仮処分 | 149条 | 終了から6か月だけ完成しない |
止め方は差し押さえの解除という手続きは条文に無いにあります。何がどこまで押さえられるかは差し押さえの範囲は給料と預金で違うにまとめました。
期間そのものは166条1項にある
数え方は民法166条1項で、1号が権利を行使することができることを知った時から5年、2号が権利を行使することができる時から10年です。早いほうで完成します。
貸金業者からの借入れは返済期日が契約で決まっているので、1号の5年が先に来るのが通常の形です。
なお2020年4月1日より前に生じた債権は、附則により従前の例によります。同じ論点を過払い金の時効はいつからかで扱っているので、古い借入れの場合はそちらを見てください。
個人間の貸し借りは、起算点でつまずく
貸金業者からの借入れと違い、友人や親族との貸し借りでは返す日を決めていないことがあります。この場合に数え始める日がどこかを、条文から追えます。
民法591条1項です。
当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
返す日を決めていないときは、貸した側が催告して初めて返す期限が生まれます。その催告と遅滞の関係は412条3項にあります。
債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
期間そのものは166条1項で変わりません。個人間だから長い、短いということはありません。違うのはいつから数え始めるかのほうです。返す日を決めた貸し借りならその日から、決めていないなら催告のあとから動きます。
借用書があるかどうかも、時効の期間には影響しません。影響するのは、貸した側が貸したことを証明できるかという別の問題です。
完成しても、言わないと使えない
期間が過ぎれば自動で消えるわけではありません。民法145条は、時効は当事者が援用しなければ裁判所がこれによって裁判をすることができない、としています。
援用は相手に伝える必要があり、伝え方や書き方を誤ると、やり取りの中で承認と受け取られる文面になってしまうことがあります。 152条1項が「新たにその進行を始める」と定めている以上、その一言が数え直しにつながります。
援用できるのは、借りた本人だけではない
145条の括弧書きを、もう一度読んでおきます。当事者には「保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者」が含まれる、と書かれています。保証人も自分で援用できる、ということです。
自己破産の免責は保証人の義務に影響しませんが、時効はここが違います。免責のほうの範囲は自己破産が家族に及ぶ範囲は、条文で限られているにまとめました。
裁判所から書類が来たときに放っておくと
いちばん取り返しがつかなくなるのがこの場面です。民事訴訟法159条1項がこう定めています。
当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。
そして3項です。
第一項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。
答弁書も出さず、期日にも行かないと、相手の主張を認めたものとして扱われます。時効が完成していても、援用を主張する機会がそのまま過ぎます。判決が確定すれば147条2項で更新され、169条1項で期間は10年になります。
裁判所から書類が届いたときは、放置がいちばん不利に働きます。
待つ選択と、手続きを取る選択
条文を並べると、待つことの前提が見えてきます。
- 相手が請求も裁判もしない
- こちらが一度も支払わず、支払いの猶予も頼まない
- 連絡が来ても、承認と読める返事をしない
貸金業者は債権の管理をしているので、この状態が5年続くことは多くありません。待つことは、相手が何もしないことに賭ける選択になります。
一方で債務整理は、期間ではなく手続きで結論を出します。どれを選べるかは債務整理の種類は決める人で分かれる、誰に頼めるかは司法書士と弁護士の違いは140万円で分かれるにまとめました。
督促が続いている場合は、依頼を受けた側が出す受任通知が届いた後の扱いが貸金業法に書かれています。受任通知が届くと取立てが止まるで条文を引いています。
判断に迷うときは、法テラス(日本司法支援センター)や各地の弁護士会・司法書士会の相談窓口があります。請求の内容でもめている場合は消費者ホットライン 188 です。
援用と手続きのどちらを取るか
時効を援用するかどうかも、手続きに入るかどうかも、決める前に条件を確かめることになります。司法書士に頼める範囲は1社あたり140万円までで、認定を受けた司法書士に限られます。
大阪のアース司法書士事務所は、事務所紹介のページに代表者の認定番号(第612074号)と大阪司法書士会の登録番号を載せているので、番号から司法書士会に確かめられます。どこまで代理できるかは司法書士と弁護士の違いは140万円で分かれるにまとめました。
まとめ
- 期間は民法166条1項の5年または10年で、早いほうで完成する
- 152条1項により、権利の承認があるとその時から新たに進行を始める
- 一部の支払いや支払猶予の依頼が承認にあたりうる
- 150条1項の催告は6か月の完成猶予だが、2項により繰り返しは効かない
- 判決が確定すると147条2項で更新され、169条1項で期間が10年になる
- 145条により、完成しても援用しなければ裁判所は時効による裁判をしない
援用すると決めたあとの送り方は時効援用は内容証明で送るにまとめました。郵便法は内容証明と配達証明で証明の対象を分けているので、片方だけでは足りません。
古い借金について債権回収会社から請求が来た場合の対応は債権回収会社から請求が来たときにまとめました。